モータ コア(鉄心)の材料・構造・特性について
Yagiです。
7月を迎え朝から陽射しが強く、福岡でも気温が30度を超える日が続いています。湿度も高いため、外を歩いていると汗が滲んでくるほどの暑さです。皆様いかがお過ごしでしょうか。
この季節、福岡の中心地博多は、一大イベントである博多祇園山笠で賑わっています。毎年7月1日から15日までの2週間にわたり開催されるこのお祭りは、福岡の夏を象徴する伝統行事で、700年以上の歴史を誇ります。博多の町全体を舞台に、巨大な飾り山や豪華な山車が街中を駆け巡り、祭りは7月15日の早朝に行われる「追い山」と呼ばれるクライマックスで最高潮に達します。
さて、今回はモータ コアについて記述いたします。
モータ コアについて
ステータ(固定子)やロータ(回転子)の鉄心部分に当たる部品のことを、モータ コアといいます。
(一般的にはモーターコアと表記される方が多いかも知れません。)
コア(鉄心)は、モータの性能に大きな影響を与える重要な構成要素の一つで、磁束の通路として機能しています。モータは導線*をコイル状に巻いて電流を流すことで磁界を発生させます。コイル状の導線の中に鉄心を入れることで、磁力線が通りやすくなり、強い磁力を発生させることができます。
*導線とは電流を通すための導体の針金。電線のこと。導体には銅、アルミニウム、鉄などがあるが、モータでは一般的に最も伝導効率の良い銅が用いられる。コイル状に成型する事を巻線という。
上図はIPMモータの例:橙色が巻線部分、赤色はマグネット。
モータ コアの材料
コアの材料には、優れた磁気特性が要求されます。
〇 電磁鋼板
鉄と微量の合金元素(珪素等)を結合させ、磁気特性を向上させた材料で、「絶縁被膜」と呼ばれるコーティングが施されています。安価な鉄鋼材料で、モータコアの材料として最も広く使用されていす。
〇 アモルファス金属
アモルファス金属(アモルファス合金)は、原子の配列が結晶構造を持たない金属の総称です。
結晶構造を持たないためヒステリシス損失が小さく、また、渦電流損失が小さい等の特性を有しており、電磁鋼板に比べ、鉄損が低いという特長を持っています。高速駆動のモータに適しています。
アモルファスについては、下記ブログをご参照ください。
アモルファスコアを用いたモータの開発・実用化
アモルファスモータについて(前編) アモルファスモータについて(後編)
〇 パーメンジュール
鉄(50%)と5コバルト(50%)の合金であり、他の軟磁性材料より高い磁気飽和特性を持っています。モータの小型化、高トルク化に寄与します。
モータ コアの構造
モータ コアは、一般的に薄い(一般的には0.3~0.5mm程度、最近の高効率モータでは0.15mm程度)電磁鋼板をプレス機などで打ち抜き、一定枚数を積層させて製造します。積層することで、渦電流の流れを抑制し、鉄損を低減させています。(発熱による熱損失を低減させています。)
モータ コアの積層方法
コアの積層方法には下記の様な種類があります。
〇 接着積層:鋼板各層の間に接着剤を塗布し、鋼板同士を接着固定する方法です。カシメ・溶接と比べ高コストですが、鉄損が少なくなる為モータの特性が向上します。
〇 カシメ積層 :2つ以上のパーツをカシメてプレス接合をする方法です。溶接・接着と比べ低コストで量産性に優れています。
〇 レーザー溶接積層:積層されたパーツを溶接により接合する方方法です。カシメ積層と比べ高コストですが、強固で耐久性の高い接合が可能です。
モータコアのスロット形状
一般的なスロット形状は下記の様な種類があります。
〇 オープンスロット
スロットの入口が広く開いているので、巻線の挿入が非常に簡単です。その反面、磁束漏れが多く磁気効率は低くなる傾向にあります。
〇 半閉スロット
オープンスロットと比べるとスロットの入口が狭く、コイルの挿入すが若干難しくなりますが、磁束漏れが少なく磁気効率は高くなります。
モータコアのスロット面積
スロット面積が大きいと、巻線容量を増やすことができ、電流容量も増え、強い磁場を生成することができますが、相対的にコアの断面積が減少するため、磁気飽和によりモータの性能低下や過熱を招く恐れがおります。逆に、スロット面積が小さいと、相対的にコアの断面積が増加するため、鉄損が減少し、モータの効率が向上する可能性があります。ただし、巻線容量が減るのでトルク不足を引き起こす可能性があります。
モータコアのスロット数
スロット数が多い(例えば、48スロット、72スロットなど)と、騒音・振動の低減につながりますが、構造が複雑になり、巻線の製造コストが高くなります。
逆にスロットの数が少ないと、巻線の製造コストは低くなりますが、トルクリップルが発生しやすくなり振動と騒音が増加する可能性があります。
最後に
少々専門的になってしまいましたが、如何でしたでしょうか。モータコアの設計には、上記のような基本事項を踏まえた上で、材料選定、形状と寸法の最適化、電磁設計、製造方法、コストなど、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。弊社は、モータ解析を行い、これらの要素をバランスよく設計することで、高性能で信頼性の高いモータの提供に努めています。
尚 アモルファスコアを用いたIPMモータのプレスリリースを2023年6月に行いましたが、2024.7/24-26に開催されるTECHNO-FRONTIER内モータ技術展ネクストコアテクノロジーズのブースで(番号 1D-10)展示されますので、ぜひご来場ください。また7/26の技術シンポジウムでもアモルファスコアのモータへの適用に関する発表が行われますので、ご興味のある方はぜひ!